大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和25年(う)411号 判決

被告人

八倉心一

主文

原判決を破棄する。

本件を松山地方裁判所に差戻す。

理由

職権で原審の訴訟手続を調査するに、

原審第三回公判調書(記録第百二十九丁)によれば裁判官更迭のため公判手続の更新を必要とするところ、裁判官は被告人に対しいわゆる人定訊問をなした後黙秘権等所定の事項を告げた上、被告人及び弁護人に対し被告事件につき陳述することがあるかどうかを尋ねたと記載されているに止まり、検察官が起訴状または訴因変更請求書を朗読した旨の記載が全然存しない。また右裁判官更迭後の原審各公判調書を検討するも検察官が起訴状または訴因変更請求書を朗読したことをうかがうに足る記載はなく、その他記録上これを認めるに足る何等の資料も存しない。右は公判審理の冐頭において「検察官はまず起訴状を朗読しなければならない」旨規定する刑事訴訟法第二百九十一條第一項の規定に違背するものであり、結局原審は検察官の起訴状(またはこれに代るべき訴因変更請求書)の朗読なくして審理を進め判決をなしたことに帰着し、かかる公判の審理は判決の基本となすことができないものといわなければならない。従つて原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼす法令の違反があるから(当裁判所昭和二十四年(控)第一三八〇号昭和二十五年五月三十一日判決参照)、刑事訴訟法第三百七十九條、第三百九十七條により原判決はこれを破棄し、同法第四百條本文の規定に従い本件を原裁判所たる松山地方裁判所に差し戻すものとする。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例